2011,02,28, Monday
アキュベリノス技術講座
シーズン1 プリント配線板について(初級編) 第2回(第2章)アートワーク設計から部品実装までの概要 今回のポイント 回路設計後の工程の概要 回路設計後の工程に対する電子回路設計者としての主な注意点 1:後工程の概要と主な注意点 プリント基板を使ったハードウェア開発の『ものづくり』の概略作業フローを以下に記します。本編は電子回路設計者の読者を想定していますので、構想設計から回路設計部分は除き、それ以後のアートワーク設計〜検査(部品実装済プリント基板の検査)の概略を順次説明します。 ![]() 1−1)アートワーク設計 電子回路設計者が設計した回路図をもとにして、実際の寸法(搭載する電子部品やプリント基板そのものなど)に合わせて、デザインして行く作業を指します。 回路図は2次元(平面)で表現されていますが、実寸法で扱うアートワーク設計では、それを3次元(立体)に変換(電子部品の高さの考慮、プリント基板を階層構造として考慮、VIAホールを使ってパターンを層別に考慮するなど)して表現します。 またアートワーク設計する上で、製品の良い悪しが決まるのは、まずは搭載部品の配置です。もちろんある程度の配線量や幅を考慮しながら行います。 この時点で電子回路設計者は必ず作業を確認すべきです。配線してからの修正には、手間と無駄が出ます。もちろん配線が終わってからの確認も不可欠です。 配置作業において3次元として考慮する物理的な構成物(要因)は、大きくは以下となります。 (1)プリント基板 縦横の長さに加え、片面基板・両面基板・多層基板と厚み方向の寸法が不可欠です。 後述しますが、高速伝送回路においては、この厚み方向が非常に重要になってきますが、案外、見落とされがちですので、注意して下さい。 (2)電子部品 キリがないくらい様々な形(パッケージ)のものがありますが、大きく分けるとリードタイプと表面実装部品(SMD:Surface Mount Device)の2種類です。 約20年前までは、いわゆる電極端子部分が、リードタイプのものしかありませんでしたが、軽薄短小の世のニーズに応えるべく、SMDが出現し、はんだ付け技術も革新を遂げてきました。 実際に使用する際にはリード加工が必要な場合もありますので、電子回路設計者がイメージする「最終的にこうしたい」を、後工程に正確に伝えるのは重要なことです。 (3)はんだ(=ソルダー) 電子部品の端子部分に溶融して固定する合金ですが、実装工程において歩留まりの良い製造ができるかどうかは、アートワーク設計工程の部品配置に掛かっています。電子回路設計者も注意して確認して下さい。 搭載部品や搭載面によって実装工程の順番は変わりますので、そこも考慮して作業する必要があります。特に量産時では考慮することが不可欠です。 はんだには共晶はんだと呼ばれる鉛(Pb)が含有されたものが使われていましたが、環境問題(特に酸性雨による鉛の土壌への流出など)を契機に、昨今は鉛(Pb)フリーと呼ばれる鉛を含有しないはんだが大半です。ここにも材料と関係設備にも技術革新が生まれています。 (4)筐体など 使用環境によって様々な形状になりますので、アートワーク設計では「高さ制限」という重要なファクターを考慮する設計します。アートワーク設計者としては、腕の見せ所です。 高級なアートワークCADでは、範囲設定をして自動チェック機能が働きます。ただし、その「高さ制限」も、元はどのような環境で使用するかを構想する段階で生まれるものですので、アートワーク設計者に正確に伝達して下さい。 1−2)プリント基板製造 一口にプリント基板と言っても、様々な工法があり、特徴があります。 どれを選択するかは、使われる環境や要求コストに依るので、後工程と相談もしくは、正確に指示して下さい。この点は次回以降で詳しく説明します。 多層基板の特徴で案外見落とし易いやすい点は、一旦樹脂部分が解けたあと、冷えて固まったものであるということです。つまり、基板の厚み方向の均一性は、半導体に比べると非常にアバウトということですので、特性インピーダンスの精度を求める時には注意が必要です。 また、よく使われる工法では、銅パターンの断面は台形(厳密には少し違いますが)になり、特に高速伝送回路としてシビアに設計する場合は、理解しておく必要があります。 1−3)部品実装 はんだ付けの良し悪しは、電子部品の形状の組み合わせ、電子部品の配置や接近距離、さらにはリード挿入穴の径、SMD部品のパッドの形状や寸法、パターン形状などで決まります。 つまり、実装がうまく行くのか、まずくなるのかは、実装工場の腕も必要ですが、部品選定や部品配置、アートワーク設計の工程でほぼ決まるといっても過言ではありません。ですので、アートワーク設計者はもちろんですが、電子回路設計者も後工程のことをよく知って進めることが非常に大事です。 知らずに進めてしまうと、最後には非常に熟練したはんだ付け職人に時間をかけて直してもらうしかないなど、納期やコストや品質に影響が出てくることを覚悟しましょう。品質が悪いものが上がってくるのは、往々にして前工程の指示に原因があることが多いです。そのためにも、電子回路設計者のみなさんにもプリント基板関連の勉強に励んで頂きたいのです。 1−4)検査(部品実装済プリント基板の検査) 全部をくまなく見るというよりは、熟練者は見るポイントや傾向が分かっていると言います。 アートワーク設計も基板も実装も、目視検査に頼るところは非常に多いです。その際のポイントは「見つけようと思って検査すること」になります。当たりまえのことですが、「不良は無いだろう」と少しでも思って行った目視検査では、エラーは見つけられません。ちょっとしたことですが、非常に大きい結果に結びつきます。 今回はここまでとします。次回は第3回(第3章)「アートワーク設計者のスキルを知る」を予定しています。 第2回(第2章)アートワーク設計から部品実装までの概要 終わり ご意見、ご質問: tetsuzan@accverinos.co.jp (本書は、株式会社アキュベリノスの著作物です。許可なく掲載、転載等を行うことを禁止します。)
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2011,02,14, Monday
アキュベリノス技術講座
シーズン1 プリント配線板について(初級編) 第1回(第1章)アートワーク設計とは何か? 今回のポイント アートワーク設計は3D 1:はじめに 電子回路設計者のみなさん。みなさんはプリント配線板(以下、プリント基板)のことについて、どれだけのことをご存知ですか?回路設計とは、HDLで記述することや、CADで回路図を描くことだと考えていませんか?正しく動作する電子回路設計とは、プリント基板を伝送路として扱い、かつ、使用する部品の選択やその配置など、部品の実装条件を加味したプリント基板のアートワーク(設計)知識が必要です。シミュレータ上で動作しても、実際にはプリント基板上で動作するのです。 本編は電子回路設計者の経験が2〜3年の方向けに、電子回路設計の後工程であるプリント基板のアートワークから実装までの最低限これだけは知っておいてもらいたいことを、初級編として12回に渡って連載します。入門編ではありませんので、基礎的な用語や知識は既にご存知でおられることを前提と致しますのでご了承下さい。 老練の電子回路設計者は、プリント基板設計を自分自身でそれなりに経験してきましたが、分業化が進んだ約20数年前からの電子回路設計者は、量をこなすために後工程を任せきりにして、技術理解の習得を怠ってきた傾向を非常に感じます。特に高速伝送回路は、プリント基板について熟知していないと回路自体が動きません。また、これからの日本のものづくりは、開発工程全体を見渡せること、原理原則をしっかりと押さえて行くことが大切だと思います。 このブログが、そんな技術者を目指す若い電子回路設計者の一助になればと思います。 さて、今の電子回路設計者から回路設計後の工程を見ると、以下のような疑問がありませんか? ◆回路設計者として、後工程のどのようなことを知っていれば良いのか? ◆アートワーク設計は何をしているのか? ◆高速な回路を動作させるためには、何に気を付ければ良いか? ◆アートワーク設計者にどのような情報を出せば良いのか? ◆プリント基板の構造は?性質は?どうやって作られる?価格はどう決められる? ◆部品実装は回路の動作に影響するのか?どんな事象が実装にとって難しいのか?環境問題への対応は? この辺りを初級編で説明していきます。 2:アートワーク設計とは何か? アートワーク設計は、2D(2次元)を3D(3次元)にする仕事とも言えます。つまり、回路図のように、実体のない情報を基に、性能を出すための考慮、使用する部品の形状(高さも含む)、ピン配置などの制約、また、実装条件などの考慮を行った上、実体の伴ったプリント基板を製造するための設計です。 アートワーク設計というのは、電子回路製品の開発工程の所詮一部でしかありません。しかしながら、次元が1つ増えるという観点から見ると、非常に重要な工程でもあります。また、最近の高速な回路を実現するには、プリント基板の材料や実装を考慮したアートワーク設計の技術が求められます。 3:プリント基板の中の3D 回路図に記載された通りの部品端子同士の接続を、プリント基板上ではパターンとVIAと呼ばれる電気的に導通したスルホール(以下、VIAと呼ぶ)を使って、パターンはVIAを通して別の層に縦横斜めに配線して行きます。つまり、プリント基板をトップビューで透かしてパターンだけを見ることができれば、重なって見える状態にあるということです。 ここで多層板について注意点があります。それは多層板の場合、各層間は意外と狭いという点です。 1)どれだけ狭くなるのか? プリント基板の標準的な厚みは1.6mmです。つまり2層基板だと、層間は1.6mmで広いです。しかし、4層板となると、基板材料の入手性の関係で、1-2層間と3-4層間は各0.3mmに、2-3層間が1.0mmということもあるのです。層数が増えるさらに狭くなります。一度、依頼先のプリント基板工場に確認することも必要です。 2)層間が狭いとどうなるのか? まず、クロストークが気になります。クリティカルな信号の隣接層はGNDが良いのですが、そううまく配線できない場合もあります。その時でも隣接層での信号ラインを平行で配線することをできるだけ避けます。また、アートワーク前に層構成を検討し、信号配線層と電源層とGND層をそれぞれ割り振ります。どうしても信号層同志が隣接する場合は、1層目は縦、2層目は横、など配線方向ルールを決めたりもします。 層構成は非常に重要で、プリント基板工場への指示にも使用します。特にインピーダンスコントロールが必要なプリント基板では不可欠になります。この詳細については、今後説明して行きます。 次に、いくら狭くても隣接層がGNDであれば、不要輻射や外乱ノイズの遮蔽が利くという有利な点もあります。隣接層同志がVCC-GNDベタであれば、層間での静電容量が増し、パスコンの役目を果たすこともあります。 4:プリント基板の外の3D プリント基板の上には、電子部品が実装されます。また、部品が実装されたプリント基板の複数が、筺体に取り付けられることがあります。どちらもプリント基板以外の空間を支配するもので、アートワーク設計の工程でいう部品配置に関わってくることです。電子回路設計者が指示するところの高さ制限に当たります。 昨今のモバイル製品のように、狭い筐体の中にプリント基板を挿入することになり、当然プリント基板に搭載する部品の位置も制限を受けます。 これをアートワークCADではどのように扱うかを少し説明します。 高額なアートワークCADではディスプレイ上で3D化した映像を出せますが、普及している一般的なCADでは、そこまでの機能はありません。共通している点は、CADは階層構造で各数値を持っていることです。 以下にアートワーク用CAD内部での階層構造の定義例を記します。 1層:部品面導箔 2層:部品面レジスト 3層:部品面シルク 4層:部品面部品禁止領域 5層:部品面配線禁止領域 6層:部品面高さ制限(〜mm以下 11層:はんだ面導箔 12層:はんだ面レジスト 13層:はんだ面シルク 14層:はんだ面部品禁止領域 15層:はんだ面配線禁止領域 16層:はんだ面高さ制限(〜mm以下) 21層:VIA禁止領域 22層:キリ穴禁止領域 上記の禁止領域や高さ制限を定義している各層に、その領域図形を入力して行くことになります。 CADにはDRC(Design Rule Check)という自動チェック機能があり、上記の層に領域設定しておくと、部品ライブラリで設定した部品外形や部品高さに抵触するとエラーを出してくれます。しかしこの機能が付いていない安価なCADもありますので、その場合は目視チェックとなってしまいます。 電子回路設計者としては、高さ制限をpdfなどの図面で指示して良いですが、それではアートワーク設計者が一から画面入力して行くことになります。アートワークCADに取り込める図形データで必ず指示をして下さい。 複雑な高さ制限(徐々に高さが変化するなど)の場合は3D機構系CADで筐体を設計する場合が多いので、そのままデータを支給すれば、アートワークCADを持っているアートワーク設計会社であれば取り込んでDRC機能でチェックできます。 今回はここまでとします。次回は第2号(第2章)「アートワーク設計から部品実装までの概要」を予定しています。 第1回(第1章)アートワーク設計とは何か? 終わり ご意見、ご質問: tetsuzan@accverinos.co.jp (本書は、株式会社アキュベリノスの著作物です。許可なく掲載、転載等を行うことを禁止します。)
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2011,02,06, Sunday
2011年2月15日より、アキュベリノス技術講座シーズン1として、『プリント配線板について(初級編)』を、このブログ“開発こぼれ話”で配信を開始します。
当社は、高速な電子回路設計技術をコアに提案型事業を展開しておりますが、その開発工程においてもプリント配線板の設計品質はその重要度を増しています。また、最近の電子回路設計者は、プリント配線板の設計から部品実装までの工程について、あまり深入りすることも少なくなって来ているのではないかという危惧もあります。さらに、電子回路設計以降の工程の知識、経験が、電子回路設計にも非常に重要であると常々思っています。 そこで、比較的経験の浅い電子回路設計者を対象に、プリント配線板の設計から部品実装までの工程を、まずは知識としてまとめてみたいという気持ちから、今回の技術講座の開始となりました。 シーズン1 『プリント配線板について(初級編)』の目次は次の通りです。 第1回(第1章) アートワーク設計とは何か? 第2回(第2章) アートワーク設計から部品実装までの概要 第3回(第3章) アートワーク設計者のスキルを知る 第4回(第4章) 工程指示情報 アートワーク設計編 第5回(第5章) 工程指示情報 基板製造・実装編 第6回(第6章) 良きパートナー作りを 第7回(第7章) プリント基板の主要な構造と材料 第8回(第8章) プリント基板の製造と検査 第9回(第9章) 取り数・シートと価格について 第10回(第10章)一般的な実装作業方法(搭載部品別) 第11回(第11章)現場は様々な部品形状との格闘 第12回(第12章)はんだ付けは熟練工の腕次第 おおよそ2週間に1回の配信となる予定です。 シーズン1が終了後、シーズン 2として、『プリント配線板について(応用編)』では、高速伝送路を中心にまとめたものを配信する予定をしております。 ご意見、ご質問などは、メール(tetsuzan@accverinos.jp)で随時お受け致しますが、ご返信が遅れる場合もございますので、ご容赦の程お願い致します。 なお、本書の著作権は、株式会社アキュベリノスが所有しております。許可なく掲載、転載等を行うことを禁止致します。 原作:哲山 編集・監修:株式会社アキュベリノス
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2010,12,29, Wednesday
このブログでは、電子製品の開発における様々な技術を、ある程度シリーズ化された読み物として、運用して行きたいと思います。
当社では、技術情報を可能な限り公開しております。また、公開することで、技術を次の世代に伝えたいという思いもあります。 大した技術を持っている訳ではありませんが、それぞれの現場の技術者が自ら努力して身に付けた経験や知識を、できる限り公開して行きたいと思います。 『アキュベリノスに行けば何か答えある』というふうになればと考えています。 第1段は、プリント配線板についてのノウハウについて、初級編、中級編をそれぞれ12回のシリーズで、2011年2月より初級編の公開を開始する予定です。更新は約2週間に1回ぐらいになると思います。 では、公開まで暫くお待ち下さい。
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